保険 アリコ Moon of Samurai 皇国の守護者

皇国の守護者 第28話 

 妹尾は死んだ。敵兵に苗川を渡河され、陣地を陥落されながらも帝国軍の軍旗を掲げさせまいと死力を尽くし、果たせずに死んだ。
 兵頭も死んだ。妹尾が死守していた陣地に翻る帝国軍の軍旗に眼を奪われ、敵兵の侵入を許して何度も銃剣で刺突された末に死んだ。
 みな死んだ。二月二十四日午後第四刻まで戦い抜けた新城直衛以下十五名を除き、後衛戦闘の任務に当たっていた剣虎兵第十一大隊六百名は全滅した。通信手段さえ生きていれば死なずに済んだ兵たちだった。
 新城は生き残った部下たちに放心を許さない。彼らには次の戦いが、俘虜としての生が待っている。胸を張り、見栄を張る必要があった。
「第十一大隊、前へ。
 剣虎兵、前進!」

 彼らは丘を下り、武装解除に応じた。北領紛争はここに終結した。

 一方、カリカチュアルなまでに無能で愚劣な司令官として造詣された守原大将は戦場から撤退する船内で帝国軍への総反抗の奏上を決意する。自らの失態を糊塗するために。
 そして皇都では新城の幼年学校時代の同期・羽鳥守人が登場。卵好きという設定のせいか、ヘビ面にされていた。



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皇国の守護者 第27話 

 新城は降伏の印である青旗を猪口に用意させる。激戦の果てにバルクホルンは新城の勇武と信条に触れ、敬意を抱く。それは新城も同様であった。
「新城大尉。わたしは貴官のごとき敵手と見えられたことを身に余る光栄とする」
「僕も同意見だ。〈帝国〉騎士大尉フォン・バルクホルン。
 貴官のおかげで僕の大隊は降伏せざるを得なくなったのだから」

 そして新城は投降する。帝国兵は青旗を無視して射殺しようにもバルクホルンが捕虜として随伴しているために手出しはできない。周囲から憎悪と殺意を受けながら新城はその場の帝国軍の最高指揮官、カミンスキィ大佐の前に進む。新城は大協約に基づいた降伏を望み、カミンスキィはそれを受諾する。型どおりのやりとりが終わったあと、新城はカミンスキィの自分への敵意を知る。華やかな武勲とはかけ離れた世界で生き、その延長で現在の地位を得たカミンスキィにとって、新城やバルクホルンのように純粋な武人と映る男は憎悪の対象であった。その端整な顔を喜悦に歪ませながら、カミンスキィは皇国軍の全兵力が昨日のうちに北領を脱出していたことを告げる。
「つまり、この二日間に貴官がおこなった勇戦はまったく無益なものだったのだ」

 




皇国の守護者 第26話 

 四方を圧倒的多数の敵に包囲されながらなお新城は任務を遂行する。新城は諦めという概念を理解しない。運命とは自分のあたうる限りの行動と智嚢を絞りつくしてなお打開できないときに不満を抱きながらしぶしぶ受け入れるものだと信じている。
 東側に二斉射を命じ、次に南側に対応。銃剣を着装させ、斉射の後に踏み込んできた敵兵を突き上げるように刺殺していく。正面の敵は撤退したが、東から縦隊が突入。装填の暇はないと判断し、新城は白兵戦に持ち込む。
 新城は最悪の状況でなお最善の行動を積み重ねてゆく。しかし兵力は確実に目減りしていく。そして帝国軍はこの地で確実に新城の部隊を磨り潰すと決めている。新城は自らの命を道具にして一人でも多くの部下を救おうと心に決める。
「曹長、君は参加するな。
 とりまとめ役が必要だ。もう一合戦済んだならば負傷者を率いてただちに降伏しろ」

 交戦を命じられたのは新城であり、彼が死ねば命令は中に浮く。下士官である猪口はその場の状況から降伏を判断する。そういう筋書きか。
「でも、あなただけ死のうってのは虫が良すぎやしませんか大隊長殿?」
「何を言ってるんだ。
 指揮官にはそれなりの特権がある。曹長はそいつの尻拭いが商売だろう。
 しかし、まあ。勝手に死ねと言わないでくれてありがとう」

 新城と猪口の絆は強く、絶望の極みにありながら軽口を叩き合える。そして漆原も参加した。絶え間ない戦闘の果てに彼の天然の愛嬌は意図的な諧謔味に進化した。漆原が完全に立ち直ったことを知り、喪失するだけの戦場で新城はちょっとしたものを得たと感じられた。そして再び喪った。帝国軍の斉射に漆原は脳漿を撒き散らした。
 ついに新城は全滅を覚悟する。しかし夕焼けを見て違和感を抱き、我に返って懐中時計を確認する。新城は捕虜のバルクホルンに近寄る。自分を殺すつもりかとバルクホルンは訊ねたが新城は否定する。
「この言葉は軍事的偽善だが「貴官の勇戦に敬意を表す」。出血がひどいな」
「手荒く運ばれたのでね。貴官が私を殺すつもりだと考えた」

 もはや新城にはバルクホルンの諧謔に付き合えるほどの気力すらない。療兵を呼んで手当てを命じる。
 現在時は二月二十四日午後第四刻過ぎ。新城に課せられた刻限である。
 新城とその部下の任務は完了した。北領の雪原を同胞と敵兵の血で染めて、自らは侵略者の膝下に頭を垂れて。

 




皇国の守護者 第25話 

 剣牙虎・千早の襲撃を凌ぐバルクホルン。新城は軍刀でバルクホルンの馬の腹を刺す。そのままバルクホルンの左足をつかんで引き摺り倒し、蹴り上げる。軍刀を抜くと、腹から流血する軍馬はバルクホルンの左腕を踏み砕いて逃亡。
 若殿の窮地を救おうと駆けつけたロボフ軍曹に千早が吠え掛かる。恐怖に顔を歪ませたロボフを新城は脅威の対象から外し、新たな敵を求めて獅子哮する。
「殺す!
 まだ殺す!」

 が、すでに敵は後退していた。損害は二十以上。敵の倍を超える。冷静さを取り戻した新城は後退を命令、部隊は森へ入った。降伏したときの敵との交渉の具にするため、新城はバルクホルンを捕虜にし、手当てをさせる。
 森での行軍中にも重傷の兵は落伍していく。稼いだ距離はわずか二里、失われた数は二十八名。丘陵地帯に雪濠を築いたが、戦闘可能人数は三十一名、剣牙虎は二頭。帝国軍に完全に包囲され、銃兵も増強された。しかし新城はなお抗戦する。もはや弾数よりも敵兵の方が多くなった現状でさえ自棄に陥らず、最善と考えられる方策を積み重ねることで戦い抜こうとする。
 四面から聞こえるのは楚歌ならぬ皆殺しの合唱。帝国公用語は理解できずとも、大まかな意味は誰にも知れる。その窮地に、ついに大隊主力を率いたカミンスキィは到着した。新城は命じられた時刻まで戦闘を続ける事ができるか。

 今月号の進行は、原作に換算すると五ページ弱。が、まるで腹が立たないのはそれだけ丁寧に描かれているためであろう。

 




皇国の守護者 登場人物(帝国) 

koukoku_06_01

 東方辺境領姫ユーリア・ド・ヴェルナ・ツァリツィナ・ロッシナ元帥。
 姓転換したラインハルト・フォン・ローエングラム。名前の由来は不明。


koukoku_06_02

 第3東方辺境領胸甲騎兵連隊長アンドレイ・バラノヴィッチ・ド・ルクサール・カミンスキィ大佐。
 皇帝の弟に尻を掘られたラインハルト。こちらも名前の由来は不明。


koukoku_06_03

 鎮定軍作戦参謀クラウス・フォン・メレンティン大佐。
 ラインハルトの守り役を兼ねたメルカッツ。
 名前はドイツ第三帝国の参謀将校であり、アフリカ戦線で活躍した“砂漠の狐”ロンメルの参謀も務めたフォン・メレンティンから採られたのであろう。なお彼は自分の体験に基づいた戦記『ドイツ戦車軍団』を著わした。『皇国の守護者』のメレンティンも、全てが終われば回想録を上梓するかもしれない。



 第21東方辺境領猟兵師団長ユーリィ・ティラノヴィッチ・ド・アンヴァラール・シュヴェーリン少将。
 名前の由来は、おそらくドイツ第三帝国の将校で戦車軍団を率いたグラーフ・フォン・シュヴェーリン。

koukoku_06_04

 ゴトフリート・ノルティング・フォン・バルクホルン騎兵太尉。
 ルフトヴァッフェ(ドイツ空軍)のエース・パイロット、ゲルハルト・バルクホルンがモデルであろう。生涯戦績は出撃回数1104回。撃墜数304機。そのスコアは同じくルフトヴァッフェの撃墜王エーリッヒ・ハルトマンの撃墜数352機に次ぐ。300機以上を撃墜したのは上記の二人のみ。
 なお通常は五機撃墜すればエースと呼ばれる。十機ならダブルエース。

 マランツォフは摩羅ンツォフ。以上。

   




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