保険 アリコ Moon of Samurai 今週のジャンプ一コマレビュー 2017年02・03号「頭突け!! 横浜謳歌高校XXxX部」

今週のジャンプ一コマレビュー 2017年02・03号「頭突け!! 横浜謳歌高校XXxX部」 

 『テニスの王子様』で知られる許斐剛先生のギャグ読切りがあまりにすばらしくて、書きたいだけ書いたら分量がずいぶん多くなったので独立した記事にしました。許斐先生の漫画の得体の知れない言語化不可能のおもしろさはあいかわらず健在です。

hitokoma_2017_02_03_01.jpg

 見開きページの中央左よりのいいポジションでサッカーボールをヘディングしているパープル頭(パープリン頭じゃないよ)が本作の主人公菩薩坂エイリくんです。バックの四人はエイリとおなじユニフォームから聯想されるとおりにチームメイトです。右下の裸マッチョのハゲは、エイリのまえに立ちはだかる壁とでもいうべき人物なのだけれど、実をいうとそこまで重要なキャラではありません。それがあえて抜擢されてここにいるのは、まあビジュアルの強烈さゆえでしょう。
 タイトルの一部が伏字であるわけはそのうちわかります。

hitokoma_2017_02_03_02.jpg

 ものがたりのはじまる一時間まえに主人公がでくわしたのは愉快きわまるビジュアルの双子がカツアゲをしている場面でした。金髪マユなし、おまけに仲よくLとRの入墨を額のはしに入れてあります。自分が見てではなく相手が見てLとRが左右になるので、人に見せるための入墨だとわかります。なにがやりたいのかはさっぱりわかりませんが。

hitokoma_2017_02_03_03.jpg

 不良への頭突きののちにモノローグで自己紹介する主人公です。新時代の不良と書いてハイブリッドヤンキーと読ませるセンスがなんというかものすごく許斐節。なお頭突きはこのあとの伏線といえなくもありません。

hitokoma_2017_02_03_04.jpg

 主人公は頭突きをかまして二ページで道路に飛びだした子どもをかばって大型トラックにはねられて瀕死の重傷を負いました。ものすごいスピード感です。このあと主人公が目ざめるとなぜか異世界に転生していて、ついでにチートスキルを手に入れていて、やることなすことすべて図にあたり彼を慕う女性連をはべらしてハーレムを築きあげます。ウソです。でも許斐先生なら今どきはやりのチート転生でもきっと最高におもしろい漫画が描けることでしょう。

hitokoma_2017_02_03_05.jpg

 エイリがたすけた子どものサッカーボールの正体はヘディング星の王子さまだった! 結果的にとはいえ自分をすくってくれたエイリを生き返らせ、さらに褒美もさずけてくれたんだ!
 なんつームチャクチャな展開だ……しかしこういうぐあいに一歩ひいた立場で書くのならともかく、余念ぬきで読んでいるとふしぎに疑問も感じず納得させられます。それは話のテンポが非常にスピーディで無駄がないのにくわえ、主人公やLR双子みたいなキャラのインパクトの強さのおかげで、話の密度が高くて読者が話にひきこまれてあれこれよけいなことを考えるヒマがないからでしょう。
 新人作家の読切りだとこうはまいりません。魅力のとぼしいキャラの寒い言動とよけいな要素のせいで数ページ読むだけで胃もたれしてもう結構と匙をなげたくなってしまいます。ベテランの腕が光る許斐先生!
 なおヘディング星の王子さまのエイリへの褒美とは丸くて動くものに頭突きをかましたくてしかたがなくなる体質になることでした。ただの呪いじゃねーか……ハゲ頭の先生がいの一番にその呪いの犠牲になるし。

hitokoma_2017_02_03_06.jpg

 そうか、わかったぞ! 男がみなおっぱいに顔をうずめたくてしかたがないのは呪いのせいだったんだ! きっとアダムがヘディング星の王子の命をすくったせいで男はみなおっぱいに顔をうずめたくてしかたがなくなるようになったんだ!

hitokoma_2017_02_03_07.jpg

『菩薩坂エイリ! ヘディングで社会の秩序を乱した罪により禁固80年』
『暴行・傷害・痴漢・ヘディング……』


 エイリが呪いのせいで将来の自分がお縄につくところを想像して恐れおののくときに妄想するセリフからしてすでにおもしろい。こういうのはありがちなシチュエーションのはずなのに許斐先生の手にかかるとぜんぜんちがって見えるのは、結局のところすべてが腕ひとつにかかっているからなのでしょう。

hitokoma_2017_02_03_08.jpg

 バリバリの不良がかつてカツアゲをしていたのを菩薩坂にとめられてデイトレードをすすめられたらしくて菩薩坂におしえられた銘柄を買ってもうけたようです。もちろんヘディングとは何の関わりもありません。
 このあとエイリが家に帰ったら自分のへやの窓の桟に例のサッカーボールが乗っていて、そこからトランプの王みたいな顔の王子がこちらをのぞいていました。

hitokoma_2017_02_03_09.jpg

 エイリと王子のボケとツッコミはたいていつまらないけれどタイの挨拶だけは笑えました。思うにコップンガーという音のおもしろさゆえでしょう。
 こういうふうに許斐先生が自覚的に読者を笑わせようと描いたところはあんがつまらなくて、逆に笑わせる必要のないところが大笑い必至というのがテニプリにはよくあります。そしてそれはこの読切りでもおなじことでした。

hitokoma_2017_02_03_10.jpg

 俺は完全にヘディングの奴隷――
「I love ヘディィィィング!!」


 なんなのでしょうかこのおもしろさは。見ているだけで捧腹絶倒を禁じえません。どんなに冷めた目つきで見ようとしても紙面からにじみ出る謎のパワーが読者を笑いの渦へといざないます。こういう場面を許斐先生がどういう意図で、どういう理窟にみちびかれて描いたのか、ぜひとも拝聴したい。女房を質に入れてでも拝聴したい。

hitokoma_2017_02_03_11.jpg

 一夜明け、ヘディング防止の気休めのつもりか安全帽をかぶるエイリの耳にテニス部の先輩の狼藉がとどきました。これまでのように頭突きをかましてこらしめるつもりなのでしょう。やめといたほうがいいぜエイリよ、許斐ワールドのテニス部とは縁どおくあるのがいちばんだぜ。
 しかしカツアゲは許さないとエイリはすすんで人外魔境へと足をふみいれようとします。なぜそこまでカツアゲを憎むのだ……

hitokoma_2017_02_03_12.jpg

「えへっ。ヘディス部……?」
「そう、テニス部だ!!」
「えっ……ヘディス部入部希望!?」


 このデブくんは糖分のとりすぎで耳の奥にまで脂肪がつまって聞きたいことしか聞えないようです。
 それはさておき「だいたいテニスなんてチャラついたもん全く魅力を感じ……」という特定のスポーツへのDISりも許斐先生が描けば一流のギャグ描写になります。もちろん他のひとにはおすすめできません。ましてや新人漫画家が描こうものなら炎上することうけおいです。
 そんなわけでエイリは横浜謳歌高校ヘディス部の練習場へとつれてゆかれたのでした。なおヘディスは許斐先生の異次元のセンスから生みだされた架空のスポーツではなく実在します。うまれは2006年、発祥の地はドイツです。やっぱりドイツは変態の巣窟だな!

hitokoma_2017_02_03_13.jpg

 本作の嫌われ者ポジション、ザコビッチ・輝。ひどい名前だな、ザコって。
 なおこのキャラはラッセン永野とかいう人がモデルだそうです。俺テレビをぜんぜん見ないので笑いどころがわかりません。しかしかりにもモデルのいるキャラにザコなんて名前をつける許斐先生は最高にロックだと思いました、まる。
 ところでザコさん、謳歌高校のヘディス部をたった五人の弱小クラブと見くだしているけれど、ヘディスみたいな超絶壮絶爆裂マイナースポーツがちゃんと部として成立しているだけでもたいしたものなのに、独立した練習場まであるというのは大出来の部類に入ると思います。てーかラッセン高校のヘディス部の規模のほうがおかしい。それとももしかしてこの読切りは、なぜか日本でアメフトが大人気という『アイシールド21』みたいに異世界が舞台なのでしょうか。
 閑話休題。謳歌高校ヘディス部の面々は四タテのボロ負けをくらいました。五人目の部長は旅行中のため不在です。そこへ名乗をあげたのがわれらが菩薩坂エイリでした。まあここはお約束ですね。いかに許斐先生といえども先っちょからケツまでムチャクチャをやるわけではありません。

hitokoma_2017_02_03_14.jpg

「テメー凄く腹が立つぜ!!(ヘディングが凄くしたいぜ)」

 どうということのないセリフのはずなのに許斐先生の亜空のセンスのせいで奇妙な笑いどころになっております。ところでいくら相手がハラ立つからといって安全帽を投げるなよ……といいたいところだけれど無意味かつナチュラルにバイオレンスなのはテニプリ世界でも共通する傾向ではあります。

hitokoma_2017_02_03_15.jpg

 出ました見開きカラーのハゲ。エイリとのあいだにこれまで因縁があったようなことは毛頭ございません。しかしラッセンさんよ、魔界から出でよってアンタのヘディス部は魔界なんかい。

hitokoma_2017_02_03_16.jpg

 一時間の熾烈なラリーのすえにエイリがたぶん強敵のコング・リーをくだしました。しかしヘディング技術は王子に鍛えられたとしてもグリーンベレー隊員を圧倒するほどの体力は一朝一夕では身につかないはず……そんな白けたツッコミが無意味になるような怒濤のテンポで読者を納得させてしまうものがこの漫画にはあります。
 しかしそれはそれとしてラッセン高校のヘディス部部員よ、部長がぷちっとつぶされたのだから相手チームの勝利に感心しているばあいじゃないだろう。そもそもゲーム自体は四勝一敗の大勝ちのはずなのに。そんなに部長がキライなのか。……ありそう。特に悪人ではなさそうだけれど一挙手一投足の腹立たしさが部員のあいだに癒しがたい不満感をかもしだしていたとかいうような裏設定がスゲーありそう。
 さてエイリの知らぬ間にヘディング王子は姿を消していました。結局エイリはヘディス部にはいることに。

hitokoma_2017_02_03_17.jpg

 ものすごく青春を謳歌しています。まことにスカッとさわやか。こういう爽快感をなぜほかの読切りでは描けないのか。

hitokoma_2017_02_03_18.jpg

 なんということでしょう。金髪双子が、七三双子に! ホントなんということでしょうとしか言えねーよ! そりゃまあエイリがカツアゲしていた不良を更正させてビジネスの道へとみちびいたことには前例もあるけどさ、許斐先生以外のだれがスポーツ漫画の読切りで主人公がきっかけとなって不良が会社をおこすような展開を描けるというのか、いや描けない(反語表現)

hitokoma_2017_02_03_19.jpg

 ラストは女の子が手をはなして木の枝にひっかかった風船をエイリがとってやったら、その風船はバク転の女王様だったというオチです。ギャグは天丼が基本。
 いやはやまことにすばらしい漫画でした。まちがいなく今年のジャンプの読切りのなかでいちばんの傑作にして怪作です。スポーツ漫画のテンプレをなぞりつつも余人では決して思いつかないようなキャラや展開のめじろおしでした。あとヘディスという新規で日本人にはなじみのうすいスポーツをプレイしてみたいと思わせる手腕もみごとのひとこと。この漫画がきっかけでヘディスをはじめたという人がふえてもいっこうにふしぎではありません。
 とにかくスゴイ読切りでした。許斐先生に感謝を。



新テニスの王子様 19 (ジャンプコミックス)
新テニスの王子様 19 (ジャンプコミックス)許斐 剛

集英社 2016-10-04
売り上げランキング : 1561

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
新テニスの王子様 18 (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 17 (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 16 (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 15 (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 14 (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 コミック 1-18巻セット (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様 13 (ジャンプコミックス) BLEACH―ブリーチ― 74 (ジャンプコミックス) BORUTO―ボルト― 2 ―NARUTO NEXT GENERATIONS― (ジャンプコミックス) 新テニスの王子様10.5 公式ファンブック (ジャンプコミックス)




コメント

シュールギャグの天才やな

読み切りで爆笑した後 巻末コメントのギャグ漫画に初挑戦☆でもうダメだった

画力もセンスも、やはり他とは一線を画していた読み切り。
連載向けじゃないけど、こういった作品も描けるってのは地力が高いからこそ出来るんだろうな。

実在のスポーツだったのか・・・

天才なのか天然なのか
巻末コメントまでもが面白いという隙のなさ

どこまでマジで、どこまでがネタなのか、もう本気でわからない

ネタと本気の境界が分からない・・・
甲斐先生スゲーとしか言えない作品だった

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://samuraimoon.blog67.fc2.com/tb.php/2584-d978bdd1

少年ジャンプ ワールドトリガー 斉木楠雄のψ難 ハヤテのごとく! 銀の匙
  • seo
Wizardry Ring
[ Back ][ Random ][ List ][ Next ]
ブログパーツ