シグルイ 第38景「敵討」
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「若先生」
「若先生」
「ご武運を」
「ご武運を」
仇討ちの当日、岩本家を出発した藤木たち三人に門弟たちが激励を送ります。みんな白目で。いつの間にか棚ボタ式で虎眼流の跡目に納まった藤木を白眼視しているという演出か?(絶対違う) なお彼らに答えたのは三重の微笑だけです。藤木の無愛想は今に始まったことではありませんが、如才ない牛股師範のノーリアクションは少し意外。さすがに緊張しているのでしょうか。
仇討場に至るまでの道程は一町手前から見物人が集まっていました。その中には藤木の兄もいて声を掛けるのですが弟は完全にシカト。貧農の三男・源之助はとっくに死んでおり、命の恩人の仇を討つために歩を進めている藤木源之助は士の家に生まれた者なのです。
兄は兄で江戸時代の人間ですから、たぶんそういう事情は先刻承知なのでしょう。そもそも貧農の自分が声を掛けても藤木の立場は悪くなるだけです。しかしかつて源之助が両親に逆さ吊りにされるのを止められなかった慙愧の念が全てを忘れさせ、弟を心配する思いが口を衝いて出たのです。とか妄想してみるテスト
藤木たちの仇、伊良子清玄はすでに仇討場に到着していました。その傍にはいくと賎機家の用人が控えています。伊良子はいくに藤木が鎖帷子を着込んでいないかを訊き、大小しか帯びていないことを確認すると微笑を浮かべます。盲目のため、無明逆流れの一撃で確実に仕留める必要があるのでしょう。二太刀目以降を繰り出さなくてはならなくなった場合、四巻の富田勢源のように至近距離で滅多打ちにするしか方法はありませんが、たぶん伊良子に小太刀の心得はないでしょうし。
さて仇討場を遠巻きに眺める群集にとって、藤木と伊良子の殺し合いはただの刺激的なイベントにすぎません。娯楽の少なかった当時、人死には最高の見世物だったのでしょう。
別に日本に限った話ではありません。ソースは忘れましたが、たしか60年代頃に日本の文学者が渡仏中、公開処刑を目の当たりにしたことがあるそうです。現地の友人たちとカフェで歓談していると死刑執行を知らせる鐘が鳴り、「さあ時間だ、見物に行こう」とパリジャンたちはにこやかに笑いながら席を立ったそうです。
さて竹矢来の内側の見物人たちの顔ぶれは、伊良子の後見人とも言うべき賎機検校、第35景で藤木をボロクソに貶していた目付の柳沢頼母、同じく第35景で藤木を賞賛した家老の孕石備前守。そしてその背後に控えるのは、孕石の三男坊・雪千代。
どことなく『覚悟のススメ』の覇岡を思い出させる顔立ちです。ついでに言えば、妙にホモ臭い。そういや覇岡の前身とも言うべき『平成武装正義団』の右手番長もホモだったな。この漫画とか『サイバー桃太郎』は山口貴由の狂気が作品に昇華しきれていないので、読んでいると眩暈がします。
さて十三歳で三人の下女を孕ませたという逸話の持ち主にふさわしく、雪千代君が注目するのは藤木でも伊良子でもなく三重でした。「たわけっ、どこを見ておる」と父親に至極もっともな叱責を喰らいます。孕石にとって武士の典型のような藤木を見せるため、わざわざ尾張から呼び戻したそうです。雪千代のエロエロ大魔神っぷりは親にとって頭痛の種なのでしょう。
掛川藩の役人が口上を述べていきます。藤木が討人で伊良子が仇人。今回の決闘で遺恨は決着し、重敵(またがたき)は禁止。だったら牛股師範はどうやって死ぬんだ?
とにかく藤木と伊良子は大刀を抜き放ちます。二人を観察する雪千代が父親に訊ねます。
「親父殿。藤木源之助の相手、あれは盲目にござるか」
「左様」
「左様って……」
右頬に流れる一筋の汗がポイント高し。素で答える孕石と呆然とする雪千代君のギャップが爆笑を誘います。なにこの漫才親子。
そもそも『シグルイ』のキャラは全員が天然、それもどいつもこいつも極北に到達している天然っぷりです。貴重なツッコミ要員として雪千代君には頑張っていただきたいところです。ま、仇討ちに失敗した三重にちょっかいを出して隻腕の藤木に惨殺されるのが関の山でしょうが。“無用だ。彼奴の赤い脣、剣術には無用だ!”とか言われて。
それはさておき、藤木は下段封じに前回の訓練通りに左手を小刀に添えます。それに対し、伊良子はなんと上段の構え。
まさしく意外。藤木が無明逆流れの対策を講ずることを見越したものでしょうか。ちなみに小説版では清玄は豆粒でさえ正面四尺以内に入った瞬間、真っ二つに割ることができるそうです。伊良子は今回、剣速を捨てて藤木の訓練を無に帰せしめたのです。いわば無明逆流れ破り破り。
今回は『シグルイ』には珍しく流血沙汰がありませんでした。いわば嵐の前の静けさ。
もし縮めんと欲すればまずは伸ばすべし
もし弱めんと欲すればまずは強めるべし
もし奪わんと欲すればまずは与えるべし
而してもし開かんと欲すればまずは蓋をすべし!
- [2006/09/24 16:44]
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